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1/17

このおっさんとリフトで相席になるのも三回目。

先ほどからこちらをゴーグル越しにジッと見ているところから

向こうも気づいているのだろう。

気まずく感じ、なにか話すべきかと顔を向けると

おっさんは小さく微笑んでおり、つられて笑顔を見せてしまったのだが

ふと視線を落としてみると

右手におっさんの左手が重ねられていることに気づいた。

驚いて顔を上げる。目が合い、おっさんの唇がゆっくりと動く。

  ” ジュテーム ”

およそ10m。迷わず飛び降りる。






12/15

医者には、全快する見込みはほとんどないと言われた。

産まれてから26年、サッカーに全てを注いできた

男の結末はこんなにもあっけないものだと

あきらめかけていた時、ミチコさんに食事に誘われた。

彼女はその食事中、時にうっすらと涙を浮かべながら

必死に励まし、引退をひき止めようと説得し続けてくれた。

その間ずっと、口元にタンシオのねぎがついていた。

好きになっていた。






12/12

4歳になる甥っ子のカズ君を預かることになった。

悪戯盛りのカズ君は、注意するのにもかかわらず

家中の引き出しという引き出しを開けて回るため、最終的に

『そこは大事なものをしまうところだから開けてはダメ!』と

少し強めにゲンコツをやったところ、泣き出してしまった。

その後一向に泣き止まず、ほとほと困り果てたのだが

夕飯にカズ君の大好物のカキフライを出したことでようやく許しを得た。

機嫌がなおったカズ君は、皿にならんだ5つのカキフライを

キラキラと見つめると、嬉しそうに頬ばった。

カズ君が帰ってから数日後。

印鑑のしまってある小さな引き出しをあけたところ

黒ずんだカキフライが1つ、大事そうにしまってあった。






8/19

義理の母のボケは日増しにひどくなっていた。

今までの徘徊癖に加え、最近では手にしたものを

なんでもポリバケツに捨ててしまうという症状が出始めたため、

毎日定期的にバケツの中を確認するのが我が家の日課となっている。

今朝は、義父が大事に使っているカツラが捨ててあった。






4/13

何もかもうまくいかず、嫌気がさし、慣れない酒をあおった。

鈍い頭痛と吐き気に目を覚ますとゴミの中。

通勤、通学で行き交う人々が一瞥しては通り過ぎていく。

その視線に耐えかね、思わず

『お前らに何がわかる!』と、わめく。

次の瞬間、見知らぬスーツのおっさんが駆け寄ってきて

泣きながら俺を抱きしめると、叫んだ。

『わかるさ!』


わけがわからぬまま、こみ上げるものを抑えきれず、吐いた。






4/2

予防接種をうけるため、近所の古びた診療所に行った。

受付にピンクのナース服をきた老婆が一人いるきりで

他に誰もおらず、すぐ診察室に通される。

不安は的中し、医師は80を超えていると思われる老人。

その手は常に小さく震えており、注射一本うつのに15分かかった。

その後さきほどの老婆がフラフラとあらわれ、

絆創膏を注射の傷の近くのホクロに貼った。






3/24

幼い息子と妻をつれて、結婚して以来はじめて祖母に会いに行った。

今年で94になる祖母は日がなテレビの前にすわって過ごし、滅多に口を開くことはない。

ただ彼女には機嫌がいい時口をムグムグと動かして

入れ歯をはずしては口から出し入れするという癖があり、

僕らが訪れた時も何も言わなかったが喜んでくれたらしく

テレビから流れる歌謡曲に合わせてテンポよく出し入れしてみせた。

思わず僕は嬉しくなって笑ったが、妻は怯えて息子の目をふさいだ。






3/19

一年ぶりの再会。

彼女は僕の顔を見るなり抱きつき、少し背伸びをしてキスをせがむ。

問題は口につめこんだ万国旗。2m。飲み込むしか、ない。






3/18

バーで出会った美しい女は、微笑みながら自分は宇宙人なのだといった。

ほとんど地球人と同じなのだが、鼻と耳の機能だけが真逆なのだそうだ。

地球の技術に興味があるので教えて欲しいとのことだったので

手持ちの、携帯やMDなどの説明を一通りしてやる。

女は少し考えこんだ後、使ってみてもいいか、と尋ねてきたので

別にかまわない、と言ったところ、女はおもむろに6000円のイヤフォンを

鼻の穴につめだしたものだから、思わず平手で叩いてしまった。






3/14

手術の際、たくさんの道具が準備されていると

全部使いきらないともったいないような気がしてしまい毎回困る。

先日もピンセットが一つ余ってしまったため、

しかたなくそれを使って患者の眉を整えたのだが

ちょっとやりすぎちゃって田舎のヤンキーみたいになっちゃったもんだから

今目覚められたら困ると思って麻酔の量を増やしたらそれ以来眠ったままだ。

生えそろうまでは眠っていてほしいと思う。






3/13

父方の祖父は元軍人で、口癖は『お国のため。』である。

そのため、ことあるごとにお前も自衛隊に入ってお国ために働けと

入隊を薦めてくるのだが、その都度かたくなに断り続けてきた。

最終的にはあきらめた様子の祖父だったが、

何を思ったのかどこからか自衛隊のヘルメットを持ち出してきて、

せめて一度だけこれをかぶってみてくれ、と懇願してきた。

不可解ではあったが、それで祖父が満足するのであればと

ヘルメットをかぶろうとしたところ、内側に強力な接着剤が塗ってあることに気づく。

かぶったら最後、二度と脱ぐことはできない。僕は入隊せざるをえなくなる。

『お国のためだ。』

祖父はそう言いニヤリと笑う。






3/12

野球において審判は神であり、そのジャッジは絶対である。

田澤さんはその長い審判生活の中で一度たりとも誤審をしたことがないという。


今朝、試合のためにグラウンドにいったところ

ホームベースの中心にこんもりとウンコが盛られていた。

田澤さんは言った。『とりあえず、この犬の糞をかたずけて。』

犬の糞。

僕は昨晩、酒に酔った田澤さんが

ホームベースの上にしゃがみこんでいるのを見た。

だが、田澤さんに誤審はない。ジャッジは絶対だ。神はウンコなどしない。






3/11

ふと足元をみると、そこにはマンホールが三つ密集していた。

なぜ一箇所に三つも。美しい三角形を形成するマンホール。

ああ、そうか。ここは特別な場所。不思議な力が集まる場所。

おもむろに三つのマンホールの中心に立ち、心を無にする。


・・・マンホール・・・マンホール・・・マンホール・・・


ちんちんがムクリ。これいかに。






3/11

高校からの帰り道。小雨。物陰で泣きじゃくる少女。

話しかけるが、しゃくりあげるばかりで返事はない。

幸い部活帰りで、鞄の中には卓球のラケットとピンポン玉がある。

得意の海亀のものまねをする。トランクスをおろし、尻の穴にピンポン玉をつめる。

強くいきむ。

ニュルン、と中に入り込むピンポン玉。違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。

強くいきむ。

出ない。


小雨。物陰で泣きじゃくる少女と、少年。






3/11

長岡和夫。53歳。サラリーマン。趣味は小石集め。

通勤途中で見つけた小石を拾っては持ち帰る。

眠れない夜は、その小石を積んで過ごす。

それでも眠れない夜は、妻の乳首をつまむ。妻は起きない。

明日は30回目の結婚記念日。いつもより強くつまむ。

妻は起きない。












Copyright (c)  藤田 All rights reserved.    Since.2005.3/11

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